横浜地方裁判所小田原支部 事件番号不詳 決定
被告人 永田義一 外二名
決 定 <検察官検事 某>
右検察官より、被告人玉木実および同相原夏男に対する昭和三五年(わ)第二九三号窃盗、傷害、被告人永田義一に対する昭和三六年(わ)第六〇号窃盗各被告事件につき、弁論再開請求ならびに予備的訴因・罰条の追加請求がなされたが、当裁判所は弁護人らの意見を聞いたうえ、次のとおり決定する。
主文
本件請求はいずれもこれを却下する。
理由
本件記録によると、本件は、被告人玉木および同相原につき昭和三五年一二月三日、被告人永田につき昭和三六年二月七日当裁判所にそれぞれ起訴され、昭和四三年七月八日結審し、判決言渡期日を同年一〇月一四日と定められたものであるところ、検察官は結審後である同年七月三一日当裁判所に対し、威力業務妨害の予備的訴因とその罰条の追加請求書を提出し弁論の再開を求めたことが明らかである。
しかしながら、右予備的訴因、罰条の追加請求は、本件事案のような場合には起訴の始めにおいてこれをなすか、または、審理中適当な時期にこれをなすべきもので、あえて審理終結後これをなし弁論の再開を求めるようなことは刑事訴訟法ことに同規則一条の精神にもとるものであつて許されないものといわなければならない。すなわち、右記録によれば、本件は起訴より結審まですでに七年五ないし七ケ月も経過しており、この間検察官は審理の経過に照らし、右予備的訴因、罰条の追加請求をなし得る機会がいくらもあつたのにかかわらず、なんらこれらの措置をとらなかつたこと、しかも、本件中窃盗の点については、当初威力業務妨害の嫌疑で捜査が進められていたところ検察官は起訴の段階でこれを窃盗の訴因に変更し、そのまま審理が進められ、結審するに至つたこと、そして、被告人側も、このような経過からして、本件審理中検察官がよもや前記予備的訴因、罰条の追加的請求等をしないであろうと信じ、もつぱら窃盗の訴因につき防禦を尽してきたものであること等が認められ、これら諸事情を考慮すると、検察官が本件審理終結後初めて前記請求をすることは、益々裁判の長期化を招来するばかりでなく、被告人らの人権尊重の立場からも考察して、信義則上到底許されないものといわざるを得ない。
よつて、主文のとおり決定する。
(裁判官 平岡省平 青山惟通 松本朝光)